世界自然遺産の島で、ビールをつくるということ

2021年、奄美大島は世界自然遺産に登録されました。その島でものをつくるということは、島の名前を借りることではなく、島に負担をかけない方法を選び続けるということだと私たちは考えています。奄美群島でただひとつのブリュワリーとして、開業前から決めていたこと、途中から始めたこと、そしてまだできていないことを、そのまま記します。

目次

  1. なぜ、ビール屋が環境の話をするのか
  2. 火を使わない醸造所——熱源を電気式に
  3. ビール粕は、捨てない——島をめぐる飼料として
  4. 島の素材を、島で醸す——生産者との循環
  5. 仕込み水は、森が育てた水
  6. 人の循環——島の雇用と、福祉事業所との協働
  7. まだできていないこと
  8. 一杯が、循環の一部になる

1. なぜ、ビール屋が環境の話をするのか

ビールづくりは、思っているよりも自然に負荷をかける仕事です。麦芽から糖分を取り出すには大量の湯を沸かし、タンクや配管を洗うにはさらに湯と水を使います。そして仕込み1回ごとに、湿った麦芽の搾りかす——ビール粕が大量に出ます。一般的な醸造所では、これは産業廃棄物として処理されるものです。

私たちの醸造所は、アマミノクロウサギやルリカケスが生きる森と、同じ島の上にあります。島は閉じた場所です。ここで出したものは、島の外に消えてはくれません。だからこそ私たちは、開業の準備段階から「熱源」と「廃棄物」の2つについて、あらかじめ設計を変えることを選びました。あとから足すのではなく、最初から組み込む。それが離島でものをつくる者の最低限の責任だと考えたからです。

私たちは「環境にやさしいビール」だとは言いません。ビールをつくる以上、負荷はゼロにはなりません。言えるのは、どこをどう変えたか、その一つひとつだけです。以下は、すべて実際に行っている具体的な取り組みです。

工程 取り組み 連携先
加熱・洗浄 熱源にガス・石油を使わず、電気式設備を採用(開業時より)
仕込み後 ビール粕(麦芽粕)を廃棄せず、全量を島内の畜産飼料へ オレンジ平飼い養鶏場、島内養豚事業者
原料調達 副原料は奄美群島産を基本とし、群島12市町村の特産品を使用 島内の農家・製糖・製塩事業者
提供 飼料として提供したビール粕由来の食材を、自社飲食店で使用 AMAMI BEER HALL/奄美大島郷土料理かめ
雇用 島内での醸造・販売雇用の創出、就労継続支援事業所との協働 一般社団法人奄美プラウン

2. 火を使わない醸造所——熱源を電気式に

醸造所の心臓部は、麦汁を煮沸する釜です。多くの醸造所ではここに直火バーナーやボイラー蒸気を使いますが、私たちは2022年の開業時、醸造設備と洗浄設備の熱源に電気式を選びました。ガスや石油を燃やす設備を、醸造所の中に持っていません。

選んだ理由は3つあります。ひとつは、島内に重油やガスを運び込み、貯蔵し、燃やすという工程そのものをなくせること。離島では燃料の輸送自体がリスクであり、コストです。ふたつめは、燃焼由来の排気を醸造所から出さずに済むこと。みっつめは、電気であれば将来、電源そのものをよりクリーンなものに切り替える余地が残るということです。

正直に書きます。電気式であることは「二酸化炭素を出していない」という意味ではありません。奄美大島の電力は、その多くを島内の火力発電に依存しています。私たちができたのは、醸造所という現場から燃焼設備をなくしたところまでです。電源そのものをどうするかは、次の章で触れる「まだできていないこと」に含まれます。

3. ビール粕は、捨てない——島をめぐる飼料として

ビールの原料である麦芽は、糖分を抽出したあとに大量の搾りかすとして残ります。これが「ビール粕(麦芽粕)」です。醸造所にとってはもう使い道のないもので、通常は廃棄されます。奄美のように処分場に限りがある島では、これは小さくない問題です。

私たちは開業時から、ビール粕を一度も廃棄していません。発生する全量を、島内の畜産の飼料として提供しています。

3-1. 平飼いのニワトリへ——そして食卓へ戻る

現在の主な提供先は、一般社団法人奄美プラウンが運営する「オレンジ平飼い養鶏場」です。同養鶏場では、私たちのビール粕をトウモロコシ・大豆・貝・海藻とともに自家配合し、発酵させた飼料としてニワトリに与えています。ケージではなく平飼いで、鶏舎に併設された運動場を自由に行き来しながら育つ鶏たちです。

そこから生まれた卵は「奄玉(あまだま)」として2024年に販売が始まりました。そして私たちは、その卵を自社が運営する飲食店AMAMI BEER HALL奄美大島郷土料理かめのメニューに使っています。

① 奄美ブリュワリーで仕込み 麦芽から糖分を抽出、ビール粕が発生
② オレンジ平飼い養鶏場へ 穀物・貝・海藻と自家配合し、発酵飼料に
③ 平飼いの卵「奄玉」が生まれる
④ 自社飲食店のメニューへ ビールを飲んだ席に、そのビールが育てた卵が並ぶ

捨てるはずだったものが、島の中だけをめぐって、もう一度お客様の目の前に戻ってくる。これが私たちの考える循環の、いちばん分かりやすいかたちです。

3-2. 島の豚へ——ブルワー自身の手で

ビール粕は養豚にも渡っています。開業時には島内の養豚事業者へ全量を提供する体制からスタートしました。さらに現在、当社ブルワーの元剛(はじめ ごう)の実家では、醸造所から出た麦芽粕を発酵させた餌で育てる放牧養豚「島育ち あま豚」を手がけています。自分が仕込んだビールの粕が、自分の家の豚を育てている。醸造家本人が最後まで見届けられる距離に、この循環はあります。

4. 島の素材を、島で醸す——生産者との循環

私たちのビールに使う副原料は、奄美群島産を基本としています。徳之島・伊仙町の純黒糖、龍郷町の海塩、奄美大島の島バナナ、たんかん、長命草、徳之島に自生するシークニン。どれも島の外から取り寄せたものではありません。

これは味の理由だけではありません。離島の特産品は、つくる技術があっても売り先が細いという構造的な問題を抱えています。私たちがビールの原料として買い続けることは、生産者にとって毎年決まった出口ができるということです。そしてビールを飲んだ方がその素材を知り、素材そのものを買いに行く。ビールが島の産品の入口になる。開業前から掲げている、群島12市町村の特産品を順に使っていくという方針は、この考えに基づいています。

自然を守るというと保護や規制の話になりがちですが、島の自然は、島で暮らす人の営みが続いてこそ守られます。畑が耕され続けること、若い人が島に残れること。私たちが原料を島から買う理由の半分は、そこにあります。

5. 仕込み水は、森が育てた水

ビールの9割以上は水です。私たちが仕込みに使っているのは、奄美大島の轟の滝を源とする水。亜熱帯の照葉樹林に降った雨が、何層もの土と岩を通り抜けてきた、ミネラルを含んだやわらかい水です。

つまり私たちのビールの味は、島の森の状態そのものに左右されています。森が荒れれば、水が変わる。水が変われば、ビールが変わる。世界自然遺産の森を守ることは、私たちにとって理念である前に、製品品質の前提条件です。奄美の森が守られ続けることを、私たちは自分の仕事の利害として願っています。

森が変われば、水が変わる。水が変われば、ビールが変わる。
奄美の自然を守ることは、私たちにとって理想ではなく、明日の仕込みの話です。

6. 人の循環 - 島の雇用と、福祉事業所との協働

私たちがビールをつくり始めた動機のひとつは、島に新しい産業をつくることでした。醸造、販売、飲食の分野において、また奄美群島でただひとつの醸造所として、島の中に働く場所をつくること。奄美出身のブルワー、島外から移り住んで醸造を支えるスタッフ、育児と両立しながらリモートでレシピとマーケティングを担うスタッフ。それぞれの形で島の仕事に関わっています。

ビール粕の提供先である「オレンジ平飼い養鶏場」を運営する一般社団法人奄美プラウンは、指定就労継続支援A型事業所を展開する団体です。私たちの廃棄物が、島の中で働く場所を支える資源になっている。環境の循環と人の循環が、同じ一本の線でつながっています。

7. まだできていないこと

取り組みを並べるページに、できていないことを書く会社はあまりありません。それでも書きます。世界自然遺産の島を名乗る以上、できたことだけを見せるのは誠実ではないと考えるからです。

電源そのものの切り替え

熱源は電気式にしましたが、その電気がどうつくられているかまでは、まだ私たちの手が届いていません。離島の電力事情のなかで何ができるのか、検討を続けています。

容器と梱包資材

瓶・缶・化粧箱・緩衝材の素材選定やリサイクル対応について、は今後の課題です。最適解が見つかるまで探していきます。

数値による把握

水やエネルギーの使用量、廃棄物の削減量を、まだ継続的に測定・公表できていません。「やっている」ではなく「これだけ減らした」と言えるようにすることが次の目標です。

8. 一杯が、循環の一部になる

奄美群島でただひとつのブリュワリーとして、私たちにできることの規模は決して大きくありません。それでも、この島でビールをつくると決めた以上、島から預かった水と素材を、できるかぎりそのまま島へ返していきたいと思っています。

グラスを傾けたその一杯は、轟の滝の水と、島の畑で実った素材と、電気で沸かした湯からできています。そして飲み終わったあと、その仕込みから出た粕は、島のどこかで鶏や豚を育てています。一杯を選んでいただくことが、そのまま循環の一部になる。私たちがつくりたいのは、そういうビールです。

世界自然遺産の島で醸した6本を、まずはひととおり。

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